冷たい熱帯魚 園子温
今回は映画です。
まず、見てない人へ
ネタバレします。楽しみにしたいならこの先は読まないでください。
それから、とってもグロくてエロっちいです。普通に臓器が出てきたり血がブッシャーってなるシーンとか女の人の裸(モザイク無し)とか出てきます。それが嫌ならやめておいた方がいいかと思います。
さて、本編です。
あらすじ
熱帯魚店の店主、社本はある日娘が万引きしたとスーパーからの呼び出しを受けます。その場を取り納めてくれた村田は近所の巨大熱帯魚店の店主でした。社本は村田の言うままに身を任せているうちに娘を村田の店で働かせることになりますが、社本は村田の犯罪の片棒を担がされてしまいます。村田は自分に不都合な人間を解体して大金をせしめる悪党でした。社本は村田とその妻、愛子とともに次々と死体を解体をすることになります。
見ての感想ですが、とりあえずエロくてグロい(笑)
死体を解体する(村田風に言うとボデーを透明にする)シーンなんかは特に臓器があれやこれや出てきて、血でぬらぬらしながら大きい包丁を使う のもリアルでした。
そういう死体のリアルさゆえにかえって生を実感させられました。
そういわれてみると、性的表現もまさしく”生”って感じがしませんか?
生き物が産まれる最初の行為ですし、人の一生で性に振り回されることなんかザラですし、生き物における性のウェイトはとてつもなく大きいですし。
そういえば、川上未映子の『乳と卵』なんかも生と性の直結を意識させるような作品でした。
『冷たい熱帯魚』との違いは女性目線か父(男)目線かというところでしょうか。
僕が一番印象に残ったシーンは、今までビビリながら村田の言うがままになっていた社本が突如暴力的になり村田を殴り、村田はもっと殴らせ社本を鼓舞するシーンでした。
暴力化したきっかけは村田が社本の妻と寝たのを告げた事でした。それまで臆病でしかなかった社本がようやく村田に反抗心を見せたのです。しかし、それでは足りず村田はこうやって人を殴るんだと殴り返して社本に再び殴らせます。
その姿は我が子に自分を乗り越えさせる父の姿に見えました。
その後、村田は強制的に愛子(村田の妻)と性交させます。
まるで本当の意味で童貞卒業をしたかのようです。
実際、その直後に社本は村田を殺し愛子を手なずけて村田の死体を解体させます。表情も態度も全くの別人で、暴力的に強気になります。妻に対しても娘に対しても圧倒的な態度を示します。(冒頭のシーンとの対比にもなっていてかなり意図的な演出です)
この変貌ぶりを見て僕が思ったのは、まるでイニシエーションではないかと。
父を乗り越え、力を得て、父になる。
そうした構図がありありと浮かんできます。
映画は村田の解体をさせた愛子を殺し、自分の妻を殺し、娘の前で自分の頸動脈を切って社本が自殺をするところで終わります。
切る直前、娘に告げた言葉は「生きるってのはな。痛いんだよ」でした。
父の目線で暴力と性とで生を語ったこの映画の最後にふさわしい一言でしょう。