俺俺(星野智幸)
久々にこんなに面白い本を手にしました。
突飛な設定で先へ先へとページを繰る手が止まらないのみならず、「自分とはなにか」「分かり合うとは何か」について新しい視点を投げかけてきます。俺ってなんだっけ?みたいになってきます。この小説はクッソ面白いのに一筋縄ではいかないところがたまんないです。
主人公がオレオレ詐欺を出来心でやってしまったら、3日後になって突然なりすました人間に成り代わっていた!
そんなことから始まる話です。自分と同じ人間のような俺が現れ始め、俺ではない俺が次第にその数が増えていきます。俺は俺であるが故に完璧に分かり合え、幸せ極まりない俺たちとなる、はずだったのですが...
自分と話すのは自分の考えにいちいち全て共感してくれ、それどころか言葉もいらないくらいに分かり合える、というだけではない。自分の見たくないところや目を背けてきたところを突きつけられるということを含んでいて、それが恐ろしい破綻をきたします。
どれくらい滅茶苦茶なことになるかは、本文の力に委ねることにしましょう。
途中で俺の記憶が本人の気付かないところですり替わってしまったりしていて、人間を自分たらしめるのは記憶によるところが大きいんだなって。でも、それだけじゃないはずで、自分が自分であれるのは何でなんだろうって疑問に投げ出されてしまった気分です。