よみしろの読む城

読んでもわからない人へ送る「僕はこう読み考えた」

ずっとお城で暮らしてる (シャーリィ・ジャクスン)

読む本を選ぶときの基準はなんだろうと振り返ってみると、僕の場合、どうもマイナーながら味わい深い文学を発掘したいという気持ちが根底にあるようだ。

例えば、大通りから少し外れた路地にある隠れた老舗であったり、客が少なく心ゆくまで羽を伸ばせる静かな喫茶店、あるいは、全国にはほとんど出回らない限定生産の日本酒であったり。

そうした自分だけの隠れたお気に入りを持つという「大人の趣味」的雰囲気に憧れているような気がする。

 

いろんなことに手を出していても、自分が多趣味と思えないのはそういう段階にはなかなか至らないからなのかもしれない。深めもしないまま、あちこちに手を出すのは節操がないと評価するのは少し厳しすぎるだろうか。

とにかく、僕は自分を多趣味とは思っていないのだけど、小説についてはもうそろそろ趣味として認定してあげていいんじゃないかなと思っている。

 

こと小説に関しては、何冊かひそかなお気に入りを発掘している。

 

ある一冊との初めての出会いは何気ない紹介記事で、その時は少し興味がそそられる数多くの一冊に過ぎなかった。

大切な一冊になったのは衝撃的なコピーに心を鷲掴みにされた瞬間からだった。

すべての善人に読まれるべき、本のかたちをした怪物である。  

この強烈なコメントを帯に刻んだ桜庭一樹は『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』でも「好きって絶望だよね」の一言を放った作家だ。

彼女が惚れた小説に持ち前のずば抜けたセンスが加われば、僕が落ちるのも至極道理だった。

最高潮に高まった期待は、驚くべきことに全く裏切られることはなかった。

 

 怪物の名は『ずっとお城で暮らしてる』

 

家族が死んだ豪邸で姉妹が細々と生きているという設定だけでかなりゾクゾクしないだろうか?

何かが起きそうな予感が深い谷底にいて、ずっとこっちを見ているかのような薄気味悪さがあるのだ。とてつもない存在感を放っているそれの正体が杳として知れない。そういう怖さがある。

 

あくまでこれは僕の印象だ。

表向きには主人公メアリ・キャサリン・ブラックウッド(メリキャット)の一人称語りですすめられていく。だから、彼女の心的変動が克明に描かれる。

しかし、それは喜怒哀楽がはっきり提示してあるという意味ではない。

多くの優れた小説がそうであるように、むしろ直接的な表現を避けている。すると、読者は手に取るように彼女の心の内が分かってしまうのだ。

そんな芸当ゆえにこの小説はホラー小説の名を冠しているのかもしれない。『ねじの回転 』なんかの克明な心理描写が高く評価されたホラー小説は少なくない。以前の記事で書いた沼田まほかるの『痺れる』もそうだ。

心を直視することは人間に取って恐ろしいことなんだと思う。

 

 

『ずっとお城で暮らしてる』の怖さは心理描写におさまらない。むしろ、行為の狂いようの方が怖いのだ。

例えば、メリキャットは何ら根拠のない自分ルールに従っている。

買い出しから帰る道をすごろくに見立てて、道を渡れないのを一回休みとしたりする。土に埋めたお宝が掘り返されなければ結界は守られると信じたりする。

これをしたらこうなる、くらいのおまじないめいた迷信だ。このくらいなら可愛いものだが、エスカレートすると、土に埋めたお宝がかなり高価なものにしたり、大事にしていた食器を割って災いを相殺しようとする。

 

僕は常々、子供に対する信奉にうんざりしているのだけれど、そういう気持ちと通ずるところがあると思う。

子供のような純粋な心、想像力、将来の無限の可能性...

正直、大人が懐古趣味を押し付けたきれいごとにしか思えない。子供は単純に無知だ。補助しないとろくにものを考えられない未熟者だ。

価値判断ができないことと純粋な心は違う。野放図に思考し飛躍してしまうことは想像力とは違う。

子供たちを讃えることを、大人である自分たちがダメであってもいいという免罪符に使っていないか。

子供を讃えても彼らは反論しないだろう。これこそ子供の無知を利用した狡い大人の自己満足に思う。

改めて、子供は無知で未熟だ。何も分かってない。

何も分かっていないことの利点は認めるが、純粋だのなんだのと呼ぶそれとは別の利点だ。

 

もし、子供がそのまま成長したらどうなるか。

純粋と呼んだ精神状態を維持したまま気ままに想像力を働かせて生きていったらどうなるのか。

メリキャットがその一つの例だと思う。子供のまま成長してしまった愚かな女性だ。

愚かな彼女は自分の愚かさに気付かないまま、ずっとお城で幸せに暮らしている。

 


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