よみしろの読む城

読んでもわからない人へ送る「僕はこう読み考えた」

ジャッカルの日(フレデリック・フォーサイス)

暗殺者というのは言い知れぬ魅力がある。

殺しは往々にして悪いことであると分かっていても、キャラクターとして映画や小説に登場するとわくわくする気持ちがどうにも出てしまうのだ。

『LEON』は最高だった。幼き日のナタリー・ポートマンの迫真の演技とジャン・レノのアクションとが相まって完璧な映画だった。

 

しかし、暗殺者というのは現実世界ではあまりお見かけしない。暗殺された有名人として記憶にあるのは、せいぜいケネディ大統領とかレーガン大統領とかジョンレノンとかキング牧師とかガンディーとか。いや、結構いるな。

 

そういえば、レーガン大統領とジョンレノンの犯人は逮捕された時、ともにサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を持っていたそうだ。個人的には『ドグラマグラ』とかよりこの本のほうがよっぽど奇書だし危険だと思っている。

サリンジャーの小説の登場人物は誰も彼も社会に対する義憤に燃えていて、俺が犠牲になってでもこのクソな世界を変えてやる、みたいな心持ちを抱いている印象だった。だから、要人暗殺の犯人が持っていたと聞いて納得したものだ。

 

話がそれたついでにキング牧師の暗殺についてゾッとした話がある。

なんと彼は自分が殺されるのを知っていたかもしれないのだ。こんな噂が出てきたのには明白な理由がある。

"I have a dream "で有名なように、彼はいつもきぼうをもってスピーチをしてきた。ところが、殺される直前に行ったスピーチに限り「私はもういいのです」と繰り返し述べたのだ。自分はもう十分にやったのだと言うのは明らかにおかしい。

まるで死ぬのが分かっていたのでは、と考えても不思議ではあるまい。しかし、噂は噂。真偽のほどは定かではない。

 

閑話休題

暗殺事件は予想外にたくさんあったが、なんというかわくわくする暗殺ではない。(ひどい文章だ)

僕が胸を躍らせ見入ってしまう暗殺者キャラは誰にもバレないし平然と逃げ切ってしまうような奴でいてほしいのだ。

まぁ実在してもらっても困るのだが、そんなのは架空の存在なんだろうか。要人には厳重警備がなされているわけだしやろうと思ったら難しいのだろう。

実際、どうすればいいのだろうと具体的な手順を考えるとすぐに手詰まりになる。

銃を手に入れるには? 警備体勢はどうなっている? 逃走ルートは?

考えるべきことはたくさんあるのに、僕のような凡人には到底思い及ばない。読者の皆さんもきっとそうだ。それに、考えるべきことが自分の考えた精度で十分なのかも自信がない。というか、どうせ穴がある。そう考えると、厳重警備をかいくぐってターゲットを殺してしれっと逃げ去る、なんて芸当はできない。ヘマをしてすぐに捕まってしまうのがオチだ。凡人は平和に生きた方が余程賢明なのだ。

だが、フレデリック・フォーサイスは違う。

彼は小説のキャラではない。ジャーナリストであり小説家でもある。そして、一国を転覆し得る狡智の持ち主だ。

 

彼の小説『ジャッカルの日』はドゴール大統領の暗殺を依頼された暗殺者が活躍する。否、暗躍する。本名はおろか、国籍すら不明。分かるのは暗号名がジャッカルということのみ。

ジャッカルの優れているのは全てが徹底しているからだ。微塵も自分の形跡を残さない隠密活動とそれを可能にする入念な計画。狙撃に適した位置取りや逃走ルートを確認し、当日の状況の予想をたて、標的の性格まで頭に仕込む。

ジャッカルの綿密さは、とりもなおさずフォーサイスの能力の高さの証明ともなる。一切の妥協を許さない精密な文章を作り上げる。偽造パスポートが必要となれば用意する工程を記述し、税関を通り抜けて銃を輸送する術を記述する。安易な省略はしないのだ。

 

ジャッカルを追う警察側の記述も抜かりない。暗殺計画の存在すら隠され、その後には人相も分からない人間を追いつめていく捜査は困難に違いないが、しかし、確実にジャッカルへと追いついていく。フォーサイスはもちろん捜査の進捗にも論理の飛躍を許さない。

プロの暗殺者の緻密なまでの慎重さを書ける人間が警察側をもその精密さで書き上げているのだ。面白くないわけがない。

 

フォーサイスの恐ろしいほどのしたたかさを示す「噂」がある。

別作『戦争の犬たち』だが、これは彼が本当に遂行しかけた国家転覆の計画を小説に使い回したものと言われているのだ。

この噂も世に出回る噂の大半がそうであるように真偽のほどは闇の中だ。


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