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よみしろの読む城

好きな小説を好きなだけ褒めちぎります

華氏451度 (レイ・ブラッドベリ)

オススメ本

あらすじ (ネタバレ?含む)

世の中に溢れる禁書を焼き尽くす昇火士のモンターグは、自分の仕事を誇りに思っていた。しかし、好奇心に負け禁忌であると分かりながら焼くはずだった本を何度か密かに持ち帰り所持していた。隣家に住む不思議な雰囲気の少女や、本とともに焼かれて死んでいった人に影響を受け、ついに所持していた本を読んでしまう。徐々に身の回りの不自然さに気付き混乱するモンターグは、以前に見逃していた読書家の老人と接触する。変わっていったモンターグの「奇行」に耐えられなくなった周囲の人の密告により昇火士の仕事で自宅を焼き、さらに処罰を受けることになったモンターグは上司の昇火士を殺し逃亡する。逃げた先でモンターグは本を記憶し後世に伝えていく人々に出会い、以後行動をともにしていく。

 

 

華氏451度とは紙の燃える温度です。この世界では本は好ましくないものという共通認識が築かれており、主人公のモンターグは昇火士という本を焼く仕事をしています。


昇火士はなぜ本を燃やすのか?

簡単に言ってしまえば「思想レベルで対立を無くしてしまえば心の平穏が保たれるから」です。ある意見があればそれに反対する考えもある。だったら両方とも無くしてしまえば平和でいいじゃない、という発想です。でも、本を読まなくても人々は勝手に考え自然と様々な意見で溢れかえるのでは?と思ってしまいますが、そこは抜かりない。考えさせる暇もないくらいにどうでもいい情報に溺れさせればいい。

 

民衆により多くのスポーツを団体精神を育み、面白さを追求しよう。そうすれば人間、ものを考える必要はなくなる。(中略)心が吸収する量はどんどん減る。せっかち族が増えてくる。ハイウェイはどこもかしこも車でいっぱい、みんなあっちやこっちやどこかをめざし、結局どこへも行き着かない。

 

イライラする原因を排除し、みんなで平和な世の中にする。そんな世の中を無条件で肯定し、省みることもできない人々。なんだかこの前の<harmony/>に似ていますね。

人々が幸せであればいい社会である、が当たり前ではないということですね。ディストピアものはだいたいこういう雰囲気がありますね。(むしろ自分の中のそういう思想が僕に同じ見方を強要するのか...)

 

実はこの社会の裏では戦争が起きていて、最後に街が壊滅します。(すごくあっさり)彼らは戦争が起きていることすら知らないで平和に暮らしたまま死んでいきました。一方で最後にモンターグが出会う知識人の一行は生き延びました。彼らには世界中に同志がいて、彼らの一人一人が本の内容を口頭伝授するためだけに生きています。遥か未来に古典が必要になった時に知識を授けるために本を焼く社会の外側で生き延びているのです。ネットを使って集めたわけでもなく自然発生的にできた、直接的に関わることのない人々の集団です。口頭伝授という形をとることで社会と軋轢を最小限に抑えながら来るべき未来へ希望を託して機会を伺っている、というやり口はなんとなく現実味を帯びていますね。



彼らの存在はどんな世界であれ、本の価値に気付く人が一定数いることの訴えでしょうか。

作中、本の価値について直接的に語られている場面もあったりします。

対立思想の根絶のために排除しなければならないのは本に限らないはずですが、わざわざ昇火士を主人公にしてタイトルを『華氏451度』にしているところにレイ・ブラッドベリの本に対する愛情が窺い知れますね。


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