よみしろの読む城

好きな小説を好きなだけ褒めちぎります

芋虫 (江戸川乱歩)

おどろおどろしい作品を描く印象の強い江戸川乱歩ですが、『芋虫』もまた然り。以下、あらすじです。

 

戦争から帰還した夫は四肢が全て失われており、加えて耳も使えず頭も十分には働かず、できることと言えばのたうち回ること口にペンを加えて何文字かの筆談をすること程度という有り様。妻は面倒を見ながらも、哀れみ故に慈しむ気持ちが強く、ある日意図的ではないものの無意識的に夫の目を失明させてしまいます。許しを乞いながらも急ぎ、医者を呼んでくると、夫は「ユルス」と書き残したまま家を出ていました。四肢のない夫が遠くに行けるはずがないと捜索をしていると…

 

 

おどろおどろしい凄まじい作品です。特筆すべきは妻の夫に対する心内描写でした。


落ちぶれて人かどうかすら定かではなくなった夫を慈しむようにして世話をします。夫の生殺与奪は全て自分が握っているようなもの。自分より他に頼れる者もいない弱くて脆いただの肉塊だからこそ、その醜さを慈しむ。人が人を蔑むことの愉悦。秘密裏の願望を、普段は決して表に出ることのない悪を見事に暴露しています。


夫の目を潰す場面では、あからさまにそんな暗い願望が炙り出されています。

妻には夫が喋ることのできないために、ものを訴える能力が目に集約されているかのように感じられます。夫の目は人間らしさが感じられるコミュニケーションツールの最後の砦であり、唯一残されたその目を潰すことで夫の醜さは完成されたのです。滅茶苦茶にしてやりたいという破滅的な激しい感情が溢れだしていく様は圧巻でした。



全体を通しての非常に肉感的でグロテスクな描写が効いて、心情描写が始まれば自然と心の暗部につれていかれます。


肉塊と化した夫の跳ね回る様は脳裏に焼き付けられ、最後の最後に潜み続けていた凄絶さが噴出し、圧倒的な余韻を残していきました。

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