思惟漏刻

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村上春樹の良さ

村上春樹ほど好き嫌いの別れる作家はいないのではないでしょうか?

 

全くわからんと一蹴する人がいる一方で、ハルキストと名前が付くほどのファンをもつ作家。そんな作家さん、なかなかいません。

 

かくいう僕も最初は嫌いで、後に読み直して大好きになった口です。

中3で『ノルウェイの森』を読み、全く何が言いたいのか分からないとうんざりして、なんでこんなに褒めそやされているのかと思ったものです。

 

大学に入学し、小説を読むようになった初めの頃、「村上春樹がなぜここまで評価されているのか突き止める」のを第一目標としていました。

 

今のところの結論は、誤解を恐れずに言えば

「なんかよくわかんないけどグッとくる!」

のが村上春樹の良さです。分からないからこそいいんじゃないか、理解することでしか楽しめないのは自分の頭の届く領域でしか楽しめないわけで、あまりに貧相な読書経験ではないか、という感じです。

 

現代は科学偏重主義だ、というと凡庸な感じがしますが、論理的な方が好まれるような気がします。

「なんとなく良い」って感じるのと「ここはこうだからこういう良さがある」というのだと後者の方が聞き手に評価されやすい風潮がある気がします。つまり論理的であることが好まれる。

 

でも、当たり前ですが論理的であることが全てではないし、こと娯楽について言えば、人と話すにしても何かを作るにしても、理由は分からないけど面白いっていう感覚が大事じゃないですか?

それは当然、読書にも言えるわけで「ここがこうだから面白いんだ」って言えるのはそこまで偉いことではないように思います。だってそうでしょう?誰かとの会話でなんともないタイミングで笑った時に、「なぜそこが面白いのか教えてくれ」なんて聞くのは無粋です。

 

そういう考え方があまり浸透していないで、代わりにこの関係とこの関係がどうとか、二項対立になっているとか、執筆背景がどうとか、そういう分析的な読み方が正しいのだと思われがちなように思います。あるいは、「筆者が何かを伝えたいのだから、その主張を読み解かなくてはいけない」というような義務感に裏打ちされた読み方も正しいと思われがちです。

 

村上春樹の作品は「なんとなく良い」の「なんとなく」の出し方が半端じゃなく優れているから評価されているのだと思います。逆に、理解の仕様が無いのだから頭でっかちな読み方をしていたら面白いわけないんですよね。

 

村上春樹本人も自分から出てきた物語を他人がどう読むのか楽しんでいる雰囲気がありますし、言うなれば自分の見た夢を他人に聞かせてる感じなのではないかと思っています。

 

僕が村上作品全般に感じることなのですが、他の作品とは書かれ方が違うように思います。

端的に言えば、他の多くの作品は背景に深い思想を感じるのに対し、村上作品の背景には作者の人生経験を感じるということです。

 

前者は安部公房なんかが顕著で、あることについて考え抜いてそれを小説の形で表現しています。わざわざ小説にしているのは直接的な言葉では伝わらないものがあったり、読者の心に響きにくいからだというのが僕の持論です。

一方で、村上春樹はいろいろ考えたり経験したりはすごくしているのだけど、それを小説化するのではなく、いろいろな思想や経験が絡み合った自分の心のうちをごちゃごちゃしたまま整理して小説の形にしているように感じます。

 

そうしてできた作品は、頭ではなく直接心の方に訴えかけてくる。だから「なんとなく好き」と感じさせることができる。それが村上作品の良さなのではないかと思うのです。

 

かといって感覚的にも楽しむことのできる人で、楽しめない人はいると思います。面と向かって話してて気が合わない人がいるように、単純に村上春樹その人と波長の合わない人とか。

逆に、村上春樹とどこか似た人生経験を経ている人は、例えば『ノルウェイの森』に青春時代の原型を感じるのではないかと見ています。

 

 

本当は僕がこうして書いているのもだいぶ理屈っぽいのだとは思うのですが、「村上春樹とかわけ分かんないからつまらん!」って言い分に「わけ分かんないのに面白いからすごいんじゃん!」って言ってやりたかったので書いてみました。

 

 

 

余談ですが、

個人的には『ノルウェイの森』が一番好きで影響もすごい受けていますが、他にもたくさん好きな作品はあり、『ねじまき鳥クロニクル』も大好きです。こっちはなんとなくエネルギッシュな印象を受けます。井戸の中にいるシーンや皮剝のシーンなんかは書いててもの凄いエネルギーを消費したのではないかと思います。

 

国境の南、太陽の西』は村上春樹にしては直接的な言葉で書かれていて分かりやすい印象でした。『ノルウェイの森』の骨格を転用して思考表出タイプ寄りにした作品という印象を受けました。これもおすすめ。

 

ハルキストのおすすめは意外と『ノルウェイの森』以外のものが多いようですね。適当にピンッときたのを手に取ってみた方が当たりを引くのではないでしょうか。

 

長くなりましたが、本日はここで。


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