女生徒 (太宰治)
文豪と言えば太宰治。今日紹介するのは太宰の短編の一つ『女生徒』です。
ある女の子の過ごした平凡な、特に事件が起こるわけでもない一日を描いています。年頃の女の子ゆえにいろいろ悩みもあるわけで、自分を省みては心が揺れ動いてばかりです。かといって恋愛ごとにうつつを抜かすタイプの女の子ではありません。世界にどうにも上手くなじめなくって悩んでしまう、ぐちゃぐちゃ考えちゃうタイプの女の子です。
ベタですが「これは自分のことを知って書いたのではないのか!」というように思える小説でした。
僕にもこういう時期があったし、今も色濃く残っているわけで、僕の心を代筆してくれたような傑作です。これが文豪の力か。
女の子としても、こんなことをぐちゃぐちゃ考えても、何の解決にもならないことは分かっているんだけど、それでも悩んでしまうし苦しめられる。そのくせちょっと何かがあるとさっきまで考えていたことが思い出せなくったりもして自分の小物さを思い知り嫌になる。
そんな良質な中身は、的確な文章と相まって僕ら読者ははっとさせられるんですね。響いて心に残る文がたくさんあります。
例えば
カア(※1)は、きたない。ジャピイを可愛がっていると、カアは、傍で泣きそうな顔をしているのをちゃんと知っている。カアが片輪だということも知っている。カアは、悲しくて、いやだ。可哀想で可哀想でたまらないから、わざと意地悪くしてやるのだ。
※1 犬の名前。可哀想だからカアと名付けられた。ジャピイも犬の名前
洋服いちまい作るのにも、人々の思惑を考えるようになってしまった。自分の個性みたいなものを、本当は、こっそり愛しているのだけれども、愛して行きたいとは思うのだけど、それをはっきり自分のものとして体現するのは、おっかないのだ。
将校さんだって、そんなに素晴らしい生活内容などは、期待できないけれど、でも、毎日毎日、厳酷に無駄なく起居するその規律がうらやましい。
などなど。ものすごく自分の心のうちを言い当てられているようでびっくりしています。とても人の心の弱いところを分かっていて、太宰こそが弱者の味方であると救われる思いになります。