よみしろの読む城

読んでもわからない人へ送る「僕はこう読み考えた」

卍 (谷崎潤一郎)

エロティック文豪 谷崎潤一郎の代表作の一つ『卍』

 

以前『マゾヒズム小説集』をけっこう前に読んだっきりで代表作を読んだのはこれが初めてです。

 

以下、ネタバレ含むあらすじです。

 

すっごく雑に言ってしまうと、語り手である園子が同性愛に目覚めます。同性愛というか知り合いの光子さんが大好きになってしまう話と言った方が正しそうです。

 

園子は結婚しているのですが、同性愛は当時の風潮では許されていなかったということもあり、夫に隠して光子さんといちゃいちゃします。ところが、光子に男がいることが発覚し、裏切られたと思い悩んだ園子は矛先を変えたように夫にベタベタします。光子の裏切りが園子の勘違いだと判明すると、無事に仲直りすることができたのですが、ところがどっこい。最終的には園子の夫も光子のことを愛するようになってしまいます。

なんという三角関係! 痴情のもつれ!

谷崎ワールド全開って感じです。

 

かなりざっくりとしたあらすじではありますが、小説の凄さは大筋よりもむしろ本文に宿っているので、ビビッと来たら読んでください。

あらすじで感じた小説はだいたい当たりというのが僕の経験則です。

 

ちなみに、園子と夫はもともと気が合わないとのことだったのですが、光子との関係とは見事に対照的です。そうした対比が見事に書ききった文豪の文章能力を楽しむ意味でも良い一冊かもしれません。

 

さて、僕が『卍』から感じ取ったのは、谷崎潤一郎の思い描く親密さについてです。

欲情まみれでめちゃくちゃに絡みつくような「好き」こそが本当なのだ、というでもいうかのようなディープな交わり。

園子が光子や夫といちゃいちゃするときは一時も離れていられない様子でしたし、何を犠牲にしてでも一緒の時間を作ってしまう勢い。

嫉妬も激しく狂気とも思える有様で、あたかも「壊れるくらいに私だけを愛してっ!!」と叫んでいるかのようでした。(この嫉妬が結末で濃厚に回収される様は圧巻でした)

 

親密な関係を求めるとき、友達にしろ恋人にしろ何かを相手に求めているものです。

同性の友達だったら気遣いのいらない仲でありたいとか、恋人はありのままの自分を受け入れてくれる人が良いだとか、表面化していないにせよ何かしらの要望を持っているものです。

谷崎はそうした要望をグロテスクなほどに剥き出して、我々が心底で望むのはこんなエロくてどろどろした情念なんだ。見ろ。これがお前の本心だ。

そう言って見せつけてきた小説が『卍』なのではないかと、感じたわけです。

  

 

 

ところで、なんでタイトルが卍なんでしょう。

読んでいくうちに、卍という字が人と人が絡み合う様に見えてきました。まじ卍…

 

やはり恋愛沙汰が人間の感情をめちゃくちゃに揺さぶるもので、谷崎潤一郎はその遥か延長のように感じました。

 

『卍』に出てくる三人が目まぐるしく落ち込み喜び嫉妬をし、狂わんばかりの生々しい懊悩に、こちらまで痛くなります。

ところが、一方で、それほどまでに人を好きになれることがにどこか羨ましさを感じる自分もいるのでした。

 

 


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