思惟漏刻

本のおすすめと思考とっちらかしサイバーデブリ

私の恋人(上田岳弘)

習慣的に本を読まない人から見ると、読書が好きと言う人は知的なイメージになるような気がする。

僕が人よりだいぶたくさん本を読んでいる自覚はあっても読書家ですと名乗りたくないのもその辺の消息のためだと思う。

ただ、趣味は読書ですと言うことも実は憚られるのだが、こちらは事情が異なるようだ。他に当たり障りのない自己紹介ができない場面では言ったりもするが、そういうときは趣味と言えるほどのものではないんだけど一番時間を費やしていることだし云々とひそかに言い訳しながら外目にはもじもじしてしまう。

 

まことに独りよがりなのだが、趣味と言うには読書をすることで快感を得られなくてはいけないという線引きをしている。大変だけど読む価値があるから読もうなどと苦労を要する、努力に似た行為と思っているうちは趣味とは呼べまいという偏屈な考えだ。

 

世の中は広いもので文字を読むのが楽しくて仕方ないという人が実在して、しかも結構な人数がいるらしい。

Twitterの読書アカウントを覗くと本を読んでないと窒息せんばかりの人もいる。それから、僕ならこんなわけの分からないブログは余程面白そうでもないと読まないのだが、意外に多くの方に読んでいただいている。(ありがとうございます)

 

ところが、最近、見識を改める着想を得た。

読書には娯楽としてと勉強としての二面性がある、という着眼点だ。

 

僕はかなり後者寄りの人間だ。読書が勉強として必ずしも向いているとも限らないし、小説を勉強だと言うと反論はいくらかあるだろうが、意気込みとしては勉強のつもりでいる。だから苦労してでも読もうと思い、読んで考えたことをブログにまとめたりもする。

私たちが好んで手にする小説はSFや社会風刺的な目的で書かれた思索的な小説だ。新書も専門書も『サピエンス全史』も小説と同じような姿勢で読む。

『雪国』や『ティファニーで朝食を』も読むが、そのときは何かを読み取ろうとしたがる。

私たちが読書を通して求めているのは知的興奮なのだ。

 

活字中毒者は娯楽として読書をしているのだろう。

一時期、本当はみんな見栄をはってるんじゃないのかとさえ疑ったのだが、どうやらそうではないらしい。こんな弱小ブログを読んでいるあなた方も多分そうだ。

Twitterを眺めていてバズっている読了ツイートには「なんて美しい文章だろう」「静謐な世界観」「優しく美しい文体」などの文言が並ぶのだが、彼らは文章や内容自体を楽しんでいる。あなた方が求めているのは芸術性だ。先のグループを理性的とするならばこちらは感性的と言える。(こういう分析的な見方は感性で文章を読む人を不快にする気がする...)

 

さらに別の角度で見るならば読書行為を手段としているか、自己目的的な行為とみているかの違いとも言えそうだ。

 

念のため言っておくが、両者に優劣をつけてはいない。

僕にとって読書は苦労してやるものという側面がどうしてもついてまわるし、疲れたときにリラックスしたり落ち込んだときに前向きになる趣味を持っていないから、読書が楽しくてしかたないという人が正直うらやましい。

 

とはいえ、だ。読書が苦痛でしかないとは言わない。

好きでやっていることだし、文章や内容自体の面白さ奥深さもある程度楽しんでいるつもりだ。

便宜的にグループ分けしたが、誰もがそれぞれの側面を持っているはずだ。

 

ともあれ、読書には2パターンあるのではと発想したのは、知的興奮も得られるし読んでて面白いという圧倒的強者な本を直近で読んだからかもしれない。

 

 

 

『私の恋人』

作者は上田岳弘で受賞歴を見たら新人賞をとったり文学賞をとってたりと、やはり注目の作家だ。というか、僕が知名度の高い本を優先的に読むスタイルだから注目されているから読んだと言った方が正しい。

まだ読んだことのない本があるのが嬉しい作家の一人だ。

 

小説の内容としては、生まれ変わって三度目の人生を歩んでいる男が、一人目の人生のときに妄想した架空の恋人を三度目の人生にして現実に探し始める、という感じ。

設定が既に面白いのだけど、細かいところまでとても面白い。

自分である一人目から三人目までを「私たち」と呼称し、その他の人々を「あなた方人類」として呼びかけるように文章を綴っている。ちょっと前の文章でパロったのはお気づきだろうか。

そういえば、以前に読んだ『爪と目』も第二人称に宛てて書かれていてゾッとする文章だった。文の上手い人の使える高等テクニックな感じがある。

 

『私の恋人』の紹介に戻りたいところだが、あんまり言うと読む楽しみを奪うので内容紹介はこの辺りにしておく。

伝えたいことは伝えた。この本はめちゃめちゃ面白い。


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